園バスを買った年に基本金へ組み入れて収支差額が下がったのに、翌年からは減価償却額まで支出に載っている。「同じバスで2回費用を取られているのではないか」— そんな質問を理事会で受けた園長は少なくないはずです。この記事では、2つの処理がなぜ両方必要なのかを、学校法人会計基準と会計士協会の研究報告に沿ってほどきます。
基本金を組み入れたのに減価償却もする理由 — 園の計算書で二重に見える仕組み
この記事の要点
- 基本金への組入れは「園を続けるために持ち続ける資産の分は使ってよいお金から外す」処理(学校法人会計基準12条・13条)。減価償却は「資産のすり減りを毎年の支出にする」処理(同8条)で、目的が違う
- 取得した年は組入額の分だけ当年度収支差額が下がり、翌年以降は減価償却額が事業活動支出に載る。費用を2回取っているのではなく、見ている場所が違う
- どちらも資産の維持に必要な処理。ただし、会計処理だけで現金が増えるわけではない。減価償却を含む支出を収入でまかない、借入返済や他の投資などへの資金流出も確かめる
基本金とは — 「持ち続ける資産」の分を収支から外す
学校法人会計基準は、学校法人がその諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、事業活動収入のうちから組み入れた金額を基本金と定めています(同基準12条。令和7年4月施行の改正前の基準では29条)。
組み入れる額の代表が、教育の充実向上のために取得した固定資産の価額です(同基準13条1項1号)。園バスや遊具、園舎の増築がこれに当たります。借入金や未払金で取得した場合は、その返済や支払いを行った年度に、返済した額を組み入れます(同条3項)。別の借入れで返す借換えのように、自己資金で返したことにならない場合は、その時点では組入れの対象になりません。
事業活動収支計算書では、収入から支出を引いた「基本金組入前当年度収支差額」から基本金組入額を引いて、当年度収支差額を出します。園バスを買った年は、購入額がまるごと組入額になるので、収支差額が大きく下がって見えます。
減価償却とは — 資産のすり減りを毎年の支出にする
一方、減価償却は、固定資産のうち時の経過により価値が減るものについて、その減少額を各年度の事業活動支出として計上する処理です。学校法人会計基準は減価償却の方法を定額法と定めています(同基準8条)。貸借対照表では減価償却額の累計額を差し引いた残額を記載します(同基準19条)。
園バスなら、耐用年数にわたって毎年同じ額が減価償却額として教育研究経費に載ります。買った年に全額が費用になるのではなく、使う年数に配分される、というのが減価償却の考え方です。
二重に見える理由 — 見ている場所が違う
2つの処理を園バスの例で並べてみましょう。500万円のバスを自己資金で買い、仮に5年で償却する(残存価額0)とします。取得の翌年度から償却を始める簡便な方法を適用できる場合の説明用の例であり、実際の耐用年数や開始時期は園の資産と会計方針で確かめます。
| 見るところ | 買った年 | 翌年以降の毎年 |
|---|---|---|
| 貸借対照表の固定資産 | 500万円が車両に載る | 減価償却累計額を引いた残額が毎年100万円ずつ減る |
| 貸借対照表の基本金 | 500万円が第1号基本金に加わる | 変わらない |
| 事業活動収支計算書の支出 | この例では翌年度から償却するため、減価償却額は載らない | 減価償却額100万円が教育研究経費に載る |
| 当年度収支差額 | 基本金組入額500万円の分だけ下がる | 減価償却額100万円の分だけ下がる |
同じ500万円が出ているように見えますが、買った年に下がったのは基本金へ回した分、翌年以降に下がるのは古くなった分です。
日本公認会計士協会の研究報告(学校法人委員会研究報告第15号)は、基本金組入れは維持すべき資産の額を留保して事業活動支出に充てるべきでないという考え方によるもの、減価償却は固定資産の価値の減少額を事業活動支出として認識し一会計期間の収支計算を正しく行うために必要なものと、両者の役目を分けて説明しています。
取り替えのお金を残すには、収支と資金繰りも見る
研究報告第15号は、両者の双方または一方を行わない場合には、必要不可欠な資産の耐用年数が終わったときにその取得原価に相当する資金を法人内に確保しておくことはできない、と説明しています。
基本金への組入れは維持すべき資産の額を示し、減価償却はその取得原価を各年度に配分します。どちらも資産を維持するための会計上の仕組みですが、現金を別口座へ積み立てる処理ではありません。
買替え資金を残すには、減価償却を含む事業活動支出全体を収入でまかなえるかを見ます。そのうえで、未収金の増加、借入金の返済、別の設備投資などに現金が出ていないかも確かめましょう。減価償却額以上の収入がある、という条件だけでは足りません。
基本金は減らせるのか — 取崩しの場面
基本金は、諸活動の一部または全部を廃止した場合、経営の合理化により固定資産を持つ必要がなくなった場合、その他やむを得ない事由がある場合などに、その組入額の範囲内で取り崩すことができます(同基準14条)。バスを廃車にして次を買わないなら、その分の基本金を取り崩すことがある、ということです。
ご相談・お見積りは無料です。現在の先生に知られることはありません。
交代のご相談 (無料・守秘義務あり) →※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する助言ではありません。内容は執筆時点の法令・通知等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、公認会計士等の専門家にご相談ください。