「扶養の範囲で働きたいので、勤務時間を増やせません」— パートの先生からこう言われたとき、どの壁の話なのかを園の側が整理できると、話が早く進みます。学校法人の園の職員が入る社会保険は私学共済ですが、壁の考え方は会社の社会保険と同じです。この記事では、社会保険の壁2つと税の壁を分け、2026年に変わる点を園の給与事務の目線でまとめます。
パート職員の年収の壁 2026年版 — 106万円の要件撤廃と130万円・税の壁
この記事の要点
- 「106万円の壁」は、月額賃金8.8万円以上で、70歳未満の通常の加入者が常時50人を超える学校法人(特定学校法人等)に週20時間以上勤めると私学共済に入る目安。賃金の要件は撤廃される(健康保険・厚生年金は令和8年10月の予定。私学共済への適用の時期は政令で定める予定)。以後は週20時間が実質の線になる
- 「130万円の壁」は配偶者などの扶養に入れるかの目安で、こちらは残る(私学共済の被扶養者も年収130万円未満が基準)。一時的な収入増なら事業主の証明で扶養に残れる仕組みがある(使えるのは連続する2年間まで)
- 税の壁は別物。配偶者控除・扶養控除の所得要件は令和8年12月1日施行の改正で62万円(給与収入で136万円)に上がる
壁は3種類 — 社会保険の壁2つと、税の壁
「年収の壁」とひとくくりに言われますが、中身は別々の制度です。社会保険の加入で掛金が発生する壁、配偶者の扶養から外れる壁、そして配偶者や親の税金の控除に関わる壁の3つを、まず分けて考えてみましょう。
| 壁 | 何が起きるか | 2026年の動き |
|---|---|---|
| 106万円(社会保険の加入) | 通常の加入者が常時50人を超える学校法人(特定学校法人等)で週20時間以上・月額8.8万円以上なら私学共済に加入する | 8.8万円の要件は撤廃予定(健康保険・厚生年金は令和8年10月。私学共済への適用の時期は政令で定める)。以後は週20時間が線になる |
| 130万円(社会保険の扶養) | 年収130万円以上になると配偶者の扶養から外れ、自分で国民年金・国民健康保険に入る(園で私学共済に加入しない場合) | 残る。一時的な収入増は事業主の証明で扶養に残れる(連続する2年間まで) |
| 税(配偶者控除・扶養控除) | 職員本人の所得が要件を超えると、配偶者や親の側の控除が受けられなくなる | 所得要件が58万円から62万円へ(令和8年12月1日施行・令和8年分から) |
106万円の壁 — 令和8年10月に「週20時間の壁」へ
学校法人に使用され報酬を受ける教職員は私学共済の加入者ですが、週の所定労働時間などを勘案して政令で定める短時間の人は除かれます(私立学校教職員共済法14条)。私学事業団の案内では、通常の職員の4分の3未満で働く人が「短時間労働加入者」として加入するのは、週の所定労働時間が20時間以上、賃金の月額が8.8万円(年収に換算しておよそ106万円)以上、2か月を超える雇用の見込みがあり、学生でなく、勤め先が特定学校法人等(学校法人単位で70歳未満の通常の加入者が常時50人を超える法人)の場合です。
年金制度改正法により、この賃金の要件は撤廃されます。日本年金機構は健康保険・厚生年金についてその時期を令和8年10月と案内しており、私学事業団も同じ改正で賃金要件が撤廃されると案内しています。ただし私学共済への適用は政令で定められる予定で、撤廃は公布から3年以内の政令で定める日に施行されます。園では令和8年10月を目安に準備しつつ、私学共済の施行日は私学事業団の案内で確かめてください。
撤廃後は、特定学校法人等では週20時間以上働くかどうかが加入の分かれ目になります。壁が無くなって得をするのではなく、賃金の額に関係なく週20時間以上で加入する形に変わる、ということです。通常の加入者が50人以下の学校法人では、人数の要件が段階的に下がる令和9年10月以降に同じ話が順に回ってきます。
130万円の壁 — 扶養に残るかの線は残る
配偶者の扶養に入っている職員は、年間の収入が130万円以上になると扶養から外れ、自分で国民年金と国民健康保険に加入することになります(園で私学共済に加入しない場合)。この壁は令和8年10月の改正で消えるものではありません。
私学共済の被扶養者の収入の基準も、年収130万円未満(月額108,334円未満)です。
60歳以上や障害年金を受ける人は180万円未満、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)は令和7年10月1日から150万円未満(月額125,000円未満)に広がっています(私学事業団の案内)。
一方で、繁忙期などで一時的に収入が増えただけの場合には、事業主がその旨を証明することで引き続き扶養に入れる仕組みが設けられています。私学事業団のQ&Aでも、この取扱いは恒久的なものとされ、恒常的に130万円以上になることが明らかな場合は対象外です。証明を使えるのは連続する2年間の収入確認までで、それを超えて限度額を上回るなら被扶養者の取消が要ります。園の行事が重なって数か月だけ勤務が増えた、といった場面で使えます。
税の壁 — 令和8年12月から所得要件が62万円に
税の壁は、職員本人ではなく、その配偶者や親の側の控除に関わります。配偶者控除は居住者の合計所得金額が900万円以下なら38万円(所得税法83条)、扶養控除は控除対象扶養親族1人につき38万円です(所得税法84条)。
19歳以上23歳未満の特定扶養親族なら、扶養控除は63万円に増えます(同84条)。これらの対象になれるかどうかを決める職員本人の所得要件が、令和8年度税制改正で58万円から62万円に上がりました。施行は令和8年12月1日で、令和8年分の所得税から適用されます。
給与所得控除の最低保障額も同じ改正で65万円から74万円に上がるため、給与収入だけの人なら136万円までが所得要件の中に収まります。
上の例の年収125万円の職員は、配偶者側の控除の対象に残る計算です。
なお、130万円の判定と税の判定では、通勤手当の扱いが違います。私学共済の被扶養者の収入は非課税の通勤手当も含めて数える一方、税の所得要件では非課税の通勤手当は含めません。税の線に収まっていても通勤手当を足すと130万円を超えて被扶養者から外れることがあるので、通勤手当が多い職員は両方の線を分けて確かめてください。
園の給与事務でやること
壁の種類が分かったところで、園の側でできることを整理してみましょう。
年収の壁に関して園が整える3つのこと
職員の希望を聞く
扶養に残りたいのか、私学共済に加入して保障を得たいのか。契約更新の前に確かめる
契約時間を決める
週20時間の線を意識して所定労働時間を決め、実際の勤務がそれを超え続けないか毎月見る
年末調整で所得要件を確かめる
令和8年12月の年末調整からは62万円(給与収入136万円)の線で扶養控除等申告書を見る
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