「通勤手当は非課税だから、私学共済の掛金にも関係ない」— 園の給与事務でよく見かける思い込みです。通勤手当は所得税では一定の範囲まで非課税ですが、私学共済の標準報酬月額を決める報酬には含まれます。住宅手当は所得税でも課税で、報酬にも含まれます。この記事では、2つの手当の所得税と私学共済での扱いを条文に沿って整理し、園の手当の取扱い一覧を写して使える形にまとめます。
職員の通勤手当・住宅手当 — 所得税の非課税の範囲と私学共済の標準報酬に入る手当
この記事の要点
- 通勤手当のうち、一般の通勤者につき通常必要と認められる部分として政令で定める額までは所得税が非課税。電車・バスは経済的で合理的な経路の運賃で月15万円まで、車や自転車は片道の距離ごとに定めた月額まで1
- 所得税で非課税とされるのは、通常の給与に加算して受ける通勤手当のうち通常必要と認められる部分として政令で定めるものなど2
- 住宅手当にはこのような非課税の定めが無い。国税庁の質疑応答事例も、住宅手当と合算した手当のうち非課税になるのは区分識別できる通勤費の実費部分だけとしている
- 私学共済の報酬は勤務の対償として受ける給料・俸給・手当・賞与とこれに準ずるもので、通勤手当も住宅手当も含む。報酬月額から標準報酬月額が決まり、掛金と給付の計算に使われる3
根拠:1所得税法9条1項5号・所得税法施行令20条の22所得税法9条1項5号3私立学校教職員共済法21条1項・私立学校教職員共済法22条1項
同じ「手当」でも、所得税と私学共済で物差しが違う
園が職員に払う通勤手当と住宅手当は、給与規程の上では同じ「手当」です。ところが、所得税は通勤手当だけに非課税の枠を用意し、私学共済はどちらも報酬として掛金の計算に入れます。学校法人会計では、どちらも人件費 (教員人件費・職員人件費) の中の手当です1。
| 物差し | 通勤手当 | 住宅手当 |
|---|---|---|
| 所得税 | 政令で定める額まで非課税。超える部分は給与として課税 | 全額が給与として課税 |
| 私学共済の報酬 | 含む (標準報酬月額の計算に入る) | 含む (標準報酬月額の計算に入る) |
| 学校法人会計 | 人件費の手当 | 人件費の手当 |
所得税の非課税の範囲 — 経路・距離・月15万円
所得税法は、給与所得者が通勤に必要な交通機関の利用や交通用具の使用のために支出する費用に充てるものとして、通常の給与に加算して受ける通勤手当を非課税の対象にしています。非課税になるのは、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定めるものです1。政令は、通勤の方法ごとに非課税になる額を定めています2。給与に含めて通勤手当の部分を分けていない形の園は、通勤手当を給与明細の別の項目に分けておきましょう。
| 通勤の方法 | 非課税になる額 |
|---|---|
| 電車・バスなどの交通機関、有料道路 | 運賃・時間・距離などに照らして最も経済的で合理的な通常の経路・方法による運賃等の額 (1か月あたり15万円まで) |
| 通勤用の定期乗車券 | 同じ考え方による定期乗車券の価額 (1か月あたり15万円まで) |
| 車・自転車などの交通用具 (片道2km未満) | 非課税の枠なし (足が不自由で交通機関を使えない職員は本文の例外) |
| 交通用具 (片道2km以上10km未満) | 1か月あたり4,200円 |
| 交通用具 (片道10km以上15km未満) | 1か月あたり7,300円 |
| 交通用具 (片道15km以上25km未満) | 1か月あたり13,500円 |
| 交通用具 (片道25km以上35km未満) | 1か月あたり19,700円 |
| 交通用具 (片道35km以上45km未満) | 1か月あたり25,900円 |
| 交通用具 (片道45km以上55km未満) | 1か月あたり32,300円 |
| 交通機関と交通用具の併用 | 運賃等の額と交通用具の距離ごとの額の合計 (1か月あたり15万円まで) |
片道55km以上の区分も政令にありますが、園の職員では稀なので表では省きました。車で通勤し、勤務先の近くの駐車場を借りてその料金を負担している職員には、距離ごとの額に駐車場の料金に相当する額 (月5,000円まで) を足した額が非課税の枠になります3。
根拠:1所得税法9条1項5号2所得税法施行令20条の23同20条の23号
原則
通勤手当は、通常の通勤の経路と方法による運賃等の額や、片道の距離ごとに政令が定める額までが非課税で、超える部分は給与として課税される。
所得税法9条1項5号・所得税法施行令20条の2
ただし
車や自転車の通勤で片道の距離が2km未満の職員には非課税の枠が無く、通勤手当の全額が課税される。
所得税法施行令20条の2 2号
片道2km未満でも例外があります。足が不自由で交通機関を利用できず自動車で通勤している職員については、国税庁の質疑応答事例が、交通機関を利用したとした場合の合理的な運賃の額を実費の範囲内で非課税限度額として扱って差し支えないとしています。
住宅手当は全額が給与 — 非課税の定めが無い
住宅手当には、通勤手当のような非課税の規定がありません。国税庁の質疑応答事例は、通勤手当と住宅手当を合算して住宅通勤手当として支給する場合について、非課税の通勤手当として認められるのは通勤費の実費部分が区分識別できる場合のその部分だけだとしています。住宅手当の部分は給与として課税される、ということです。園が職員の家賃を直接負担する形でも職員が受ける経済的な利益として同じ扱いと考え、給与規程で額と支給の条件を定めて給与明細に載せておきましょう。
私学共済では、どちらも「報酬」に入る
私立学校教職員共済法は、報酬を勤務の対償として受ける給料・俸給・手当または賞与とこれに準ずるものとしています。臨時に受けるものと3か月を超える期間ごとに受けるものは、報酬ではなく賞与などの扱いです1。
毎月払う通勤手当も住宅手当も、この報酬に含まれます。報酬の一部が金銭以外のものであるときは、その価額はその地方の時価により理事長が定めます2。定期券を現物で渡す園は、その価額が報酬に入る、ということです。
標準報酬月額は、加入者の報酬月額に基づいて等級区分により定めます3。通勤手当や住宅手当を報酬に入れずに届け出ると、標準報酬月額の等級が実際より低くなり、掛金は少なくなる一方で、加入者の給付の計算の元も低くなります。日本私立学校振興・共済事業団の案内も、報酬月額に通勤手当などの手当を含めることを示しています。
根拠:1私立学校教職員共済法21条1項2同21条3項3同22条1項
手当を給与事務に組み込む段取り
給与規程に手当の額と条件を書く
通勤手当は経路・距離で額を決め、住宅手当は支給の条件を書く
職員ごとに経路と距離を記録する
車の通勤は片道の距離、交通機関は経路と運賃を届出で残す
所得税の非課税の額を出す
政令の区分に当てはめ、超える部分は課税の給与に含める
私学共済の報酬に入れる
通勤手当も住宅手当も報酬月額に入れて標準報酬基礎届書を作る
年に1回、見直す
転居や車の買い替えで距離や経路が変わったら、非課税の額も報酬も直す。車や自転車で通う職員の距離が月の中途で変わった月は、その月の1日現在の距離で支給していればその距離の非課税の額で差し支えなく、変更の前と後のうち多い方を支給する決め方なら長い方の距離の額によってよいと、国税庁の質疑応答事例が示している
| 手当 | 給与規程の条 | 支給の条件 | 所得税 (非課税の額・課税の額) | 私学共済の報酬に含めるか | 会計の科目 | 見直しの時期 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 通勤手当 (交通機関) | 含める | 人件費 | ||||
| 通勤手当 (車・自転車) | 含める | 人件費 | ||||
| 住宅手当 | 全額が課税 | 含める | 人件費 | |||
| そのほかの手当 |
園の会計や監査の準備で迷うところがあれば、無料相談でお聞きください。
まとめ — 非課税の枠は通勤手当だけ、報酬には両方入る
通勤手当は所得税で政令の額まで非課税、住宅手当は全額が課税、私学共済の報酬にはどちらも入る、の3点で整理できます。給与明細に非課税の額と報酬の額の欄を分けて持ち、職員の経路と距離を記録に残して、年末調整と私学共済の届出のどちらにも迷わない形にしておきましょう。
あなたの園の給与規程には、車で通勤する職員の距離の区分が書いてあるでしょうか。手当の一覧を上の様式で作ってみてください。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法9条(非課税所得)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令20条の2(非課税とされる通勤手当)
- e-Gov法令検索 私立学校教職員共済法21条(報酬及び賞与の範囲)・22条(標準報酬月額)
- e-Gov法令検索 学校法人会計基準 別表第二(事業活動収支計算書記載科目)
- 国税庁 タックスアンサー No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当
- 国税庁 質疑応答事例 通勤手当と住宅手当を合算して支給する場合の取扱い
- 国税庁 質疑応答事例 アルバイトに支給する通勤手当の非課税限度額
- 国税庁 質疑応答事例 障害者が2キロメートル未満を交通用具で通勤する場合の通勤手当の非課税限度額
- 国税庁 質疑応答事例 交通用具を使用している者の通勤距離が変更となった場合の非課税限度額
- 日本私立学校振興・共済事業団 標準報酬月額と標準賞与
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