「理事を引き受けてもらったが、責任を負わせて大丈夫なのか」— 園の学校法人で理事や監事をお願いするとき、理事長が口にする心配です。令和7年4月に施行された改正私立学校法は、役員・評議員・会計監査人の損害賠償責任と、その免除・限定・保険の決まりを条文にそろえました。
理事・監事・評議員の損害賠償責任 — 改正私立学校法での責任の範囲・免除の手続き・保険と補償契約
この記事の要点
- 役員・評議員・会計監査人は、任務を怠って学校法人に損害を与えたときは法人に対して賠償責任を負い、悪意や重大な過失があれば第三者にも責任を負う1
- 法人に対する責任の免除は評議員会の決議が要る。全部の免除は評議員の全員一致、一部の免除は3分の2以上の多数で、監事全員の同意も要る2
- 役員賠償責任保険と補償契約の内容は、理事会の決議で決める3
根拠:1私立学校法88条1項・私立学校法89条1項2同91条・私立学校法92条・私立学校法76条3同96条1項・私立学校法97条1項
責任は2つある — 法人に対する責任と、第三者に対する責任
役員(理事・監事)、評議員、会計監査人は、その任務を怠ったときは、学校法人に対して、これによって生じた損害を賠償する責任を負います1。理事には、法令と寄附行為を守り、学校法人のため忠実に職務を行う義務があります2。無報酬の理事でも、この責任の外にはいません。
第三者に対しては、職務を行うについて悪意または重大な過失があったときに、その第三者に生じた損害を賠償する責任を負います3。計算書類等や財産目録の重要な事項に虚偽の記載をした理事、監査報告に虚偽の記載をした監事は、注意を怠らなかったことを自分で証明しない限り同じ責任を負います4。複数の役員が同じ損害について責任を負うときは、連帯債務者になります5。
| 誰に対して | どんなとき | 責任を負う人 |
|---|---|---|
| 学校法人 | 任務を怠って法人に損害を与えたとき | 役員・評議員・会計監査人 |
| 第三者 | 職務について悪意または重大な過失があったとき | 役員・評議員・会計監査人 |
| 第三者 | 計算書類等・財産目録・登記・公告の重要事項に虚偽の記載をしたとき | 理事(注意を怠らなかったことを証明すれば免れる) |
| 第三者 | 監査報告・会計監査報告の重要事項に虚偽の記載をしたとき | 監事・会計監査人(同上) |
理事が理事会の承認を受けずに自分のために法人と取引をしたときは、その取引で理事や第三者が得た利益の額が法人の損害の額と推定されます6。理事の利益相反の取引で法人に損害が出たときは、その取引をした理事だけでなく、取引を決めた理事と、理事会でその取引の承認の決議に賛成した理事も任務を怠ったものと推定されます7。園長や理事長の親族が経営する会社との取引は、この推定が働く場面です。
根拠:1私立学校法88条1項2同38条3同89条1項4同89条2項5同90条6同88条2項7同88条3項
免除の3つの道 — 評議員会の決議・寄附行為の定め・責任限定契約
法人に対する責任は、評議員会の決議がなければ免除できません1。責任の全部を免除する決議は、議決に加わることができる評議員の全員一致で行います2。
原則
役員・会計監査人の法人に対する責任は、善意で重大な過失がないときに限り、最低責任限度額を引いた額を限度として、評議員会の決議で一部を免除できる。
私立学校法92条1項
ただし
この決議は、議決に加わることができる評議員の3分の2以上の多数で行う。
私立学校法76条2項
理事の責任を免除する議案を評議員会に出すには、各監事の同意が要る。
私立学校法92条3項
最低責任限度額は、その役員が在職中に法人から職務執行の対価として受ける財産上の利益の1年分に、理事長は6、業務執行理事や職員である理事は4、そのほかの理事・監事・会計監査人は2を掛けた額です3。免除の決議をする評議員会では、責任の原因となった事実と賠償の責任を負う額、免除できる額の限度とその算定の根拠、免除すべき理由と免除額を開示しなければなりません4。
| 道 | 誰の責任に使えるか | 手続き |
|---|---|---|
| 評議員会の決議による一部免除 | 役員・会計監査人 | 評議員会の3分の2以上の決議。理事の分は各監事の同意 |
| 寄附行為の定めによる理事会の免除 | 役員・会計監査人 | 寄附行為に定めを置き、理事会の決議。評議員の10分の1以上が異議を述べたら免除できない |
| 責任限定契約 | 業務を執行しない理事・監事・会計監査人 | 寄附行為に定めを置き、法人が本人と契約する |
寄附行為の定めによる理事会の免除は、役員や会計監査人が善意で重大な過失がない場合に限られます。責任の原因となった事実の内容や職務の執行の状況を勘案して特に必要と認めるときに、評議員会の決議による一部免除と同じ上限の額まで免除できます5。
免除の決議のあと理事は評議員に通知し、1か月以上の期間内に評議員の総数の10分の1以上が異議を述べたときは免除できません6。責任限定契約は、業務を執行しない理事、監事、会計監査人と結ぶもので、本人が善意で重大な過失がないときに、寄附行為で定めた額の範囲内であらかじめ法人が定めた額と最低責任限度額のいずれか高い額を上限にする契約です7。
根拠:1私立学校法91条2同76条3項3同92条1項2号4同92条2項5同93条1項6同93条3項・4項7同94条1項8同93条2項・私立学校法94条3項
保険と補償契約 — 内容の決定は理事会の決議で
役員や会計監査人が職務の執行に関して責任を負うこと、または責任の追及を受けることで生じる損害を保険者が塡補する保険契約(賠償責任保険契約)の内容の決定は、理事会の決議によらなければなりません1。役員賠償責任保険(D&O保険)がその代表です。
補償契約は、役員や会計監査人が責任を追及されたときの対処の費用や、第三者への賠償で生じる損失を法人が補償する契約です。その内容の決定も理事会の決議によらなければなりません2。ただし、通常要する費用の額を超える部分や、悪意または重大な過失で第三者に責任を負う場合の損失は補償できません3。
園の法人が整えること — 点検表
改正法の条文は大学法人を念頭に置いたものに見えますが、理事5人・監事2人の園の法人にも同じ責任の枠が掛かっています。理事を引き受けてくれた人に、この責任の範囲と法人の備えを説明したことがあるでしょうか。次の点検表で、自園の備えを確かめてみてください。
| 確かめる項目 | 根拠 | 自園の状態 | 直すこと |
|---|---|---|---|
| 理事会の議事録に出席者と賛否、反対意見を残している | 私立学校法43条 | ||
| 理事や親族の会社との取引を理事会で決議している | 私立学校法88条3項 | ||
| 寄附行為に理事会の決議による一部免除の定めがある | 私立学校法93条1項 | ||
| 寄附行為に責任限定契約の定めと上限の額がある | 私立学校法94条1項 | ||
| 責任限定契約を監事・非業務執行理事と結んでいる | 私立学校法94条1項 | ||
| 役員賠償責任保険の内容を理事会で決議している | 私立学校法97条1項 | ||
| 施設賠償責任保険など役員も被保険者の保険を理事会で決議している | 私立学校法97条1項 | ||
| 補償契約を結ぶなら内容を理事会で決議している | 私立学校法96条1項 |
園の会計や監査の準備で迷うところがあれば、無料相談でお聞きください。
まとめ — 責任を軽くする道は、事前に寄附行為と契約で用意しておく
責任の免除は損害が出たあとの評議員会の決議でもできますが、全員一致や3分の2以上という高い要件が掛かります。責任限定契約と役員賠償責任保険は、損害が出る前に用意しておく備えです。どちらも寄附行為の定めと理事会の決議という手続きを踏むので、次の定時評議員会までに議案を組んでおくと進めやすくなります。
点検表を埋めたら、足りない備えを次の定時評議員会の議案に組んでみてください。
ご相談・お見積りは無料です。現在の先生に知られることはありません。
交代のご相談 (無料・守秘義務あり) →※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する助言ではありません。内容は執筆時点の法令・通知等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、公認会計士等の専門家にご相談ください。