「保護者から決算書を見せてほしいと言われた」「取引先の銀行が財産目録を求めてきた」— 令和7年4月に施行された改正私立学校法のもとで、園の学校法人はどの書類を、誰に、どこまで見せるのでしょうか。この記事では、主たる事務所に備え置く書類とその期間、閲覧を請求できる人、断れる場合、公表の決まりを条文に沿って整理し、閲覧の求めが来たときの段取りを記録の様式にまとめます。
財務書類の備置きと閲覧 — 計算書類・事業報告書・監査報告・財産目録・役員等名簿・報酬基準を5年間備え置く決まりと、閲覧の求めへの対応
この記事の要点
- 計算書類等と監査報告は定時評議員会の日の1週間前の日から5年間、財産目録・役員等名簿・報酬等の支給基準は定時評議員会の日から5年間、主たる事務所に備え置く1
- 閲覧を請求できるのは、寄附行為は誰でも、計算書類等と財産目録等は債権者や在学する者などの利害関係人、評議員はこれらすべてと会計帳簿・議事録。正当な理由がなければ断れない2
- 知事所轄の園の法人にとってインターネットでの公表は努力義務。役員等名簿の閲覧では個人の住所の部分を除いて見せてよい3
根拠:1私立学校法106条1項・私立学校法107条3項2同27条・私立学校法68条・私立学校法106条・私立学校法107条3同137条・私立学校法107条6項
「備置き」は保存とは違う — 請求があればすぐ見せられる状態に置くこと
改正私立学校法は、計算書類等 (貸借対照表・収支計算書・事業報告書とこれらの附属明細書) と監査報告を、定時評議員会の日の1週間前の日から5年間、主たる事務所に備え置くことを求めています1。財産目録、役員及び評議員の氏名と住所を記載した名簿、報酬等の支給の基準を記載した書類の3つ (財産目録等) は、その会計年度の定時評議員会の日から5年間です2。従たる事務所には写しを3年間置きますが、電磁的記録で作って従たる事務所でも閲覧の請求に応じられる措置をとっていれば要りません3。
備え置くとは、請求があればその場で見せられる状態で置いておくことです。あなたの園の事務室には、請求があればすぐ出せる綴りがあるでしょうか。
| 書類 | 備置きの期間 | 閲覧を請求できる人 |
|---|---|---|
| 寄附行為 | 常に主たる事務所に (写しを従たる事務所に) | 誰でも。債権者は謄本の交付も請求できる |
| 計算書類等と監査報告 | 定時評議員会の日の1週間前の日から5年 (計算書類と附属明細書の保存は作成した時から10年) | 債権者と、在学する者その他の利害関係人 |
| 財産目録・役員等名簿・報酬等の支給基準 | 定時評議員会の日から5年 | 在学する者その他の利害関係人 |
| 理事会の議事録 | 理事会の日から10年 | 債権者 (裁判所の許可を得たとき) |
| 評議員会の議事録 | 評議員会の日から10年 | 債権者 |
| (参考) 会計帳簿と事業に関する重要な資料 | 備置きの定めは無く、閉鎖の時から10年間の保存 | 評議員 |
備置きの5年は閲覧に応じるための期間で、保存の期間とは別です。計算書類と附属明細書は作成した時から10年間、会計帳簿と事業に関する重要な資料は閉鎖の時から10年間、保存しなければなりません4。5年で綴りを棚から下ろしても、捨てずに書庫へ移してください。
評議員は、これらの書類のすべて (寄附行為・両方の議事録・会計帳簿とその資料・計算書類等・監査報告・財産目録等) について、業務時間内はいつでも閲覧を請求できます5。
根拠:1私立学校法106条1項2同107条3項3同106条2項・私立学校法107条4項4同103条4項・私立学校法102条2項5同68条
誰が請求できるか — 債権者・在学する者・利害関係人・評議員
寄附行為は、債権者が業務時間内にいつでも閲覧と謄本の交付を請求でき、債権者以外の人も閲覧を請求できます1。計算書類等と監査報告は、債権者が閲覧と謄本の交付を、在学する者その他の債権者以外の利害関係人が閲覧を請求できます2。財産目録等は、在学する者その他の利害関係人が閲覧を請求できます3。
根拠:1私立学校法27条3項・4項2同106条3項・4項3同107条5項
原則
在学する者その他の利害関係人から閲覧の請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、これを拒めない。
私立学校法106条4項・私立学校法107条5項
ただし
謄本や抄本の交付の請求には、学校法人が定めた費用を支払ってもらうことができる。
私立学校法106条3項
役員等名簿の閲覧では、個人の住所に係る記載の部分を除外して閲覧させることができる。
私立学校法107条6項
在園する子どもの保護者や取引先、借入先の金融機関は、債権者か利害関係人として請求してくることが考えられます。どこまでを利害関係人と見るかは条文に一覧がないので、迷う請求は所轄庁に確かめてから答えるのが安全です。
公表は努力義務 — 大臣所轄の法人だけが義務
学校法人は、寄附行為の内容と、計算書類等・監査報告・財産目録等のうち文部科学省令で定めるものの内容を、インターネットの利用その他の方法で公表するよう努めなければなりません1。園を設置する知事所轄の法人にとっては努力義務です。
これに対し、大臣所轄学校法人等は、計算書類等・監査報告・財産目録等のうち省令で定めるものを遅滞なく公表しなければならず2、計算書類等と財産目録等は誰でも閲覧を請求できます3。園の法人の多くは大臣所轄学校法人等に当たらないので、閲覧は利害関係人からの請求に応じる形、公表は努力義務、と覚えておけば足ります。
| 項目 | 知事所轄の園の法人 | 大臣所轄学校法人等 |
|---|---|---|
| 計算書類等・財産目録等の閲覧 | 債権者・在学する者その他の利害関係人 | 誰でも |
| インターネット等による公表 | 努力義務 | 義務 |
報酬等の支給の基準を記載した書類は、財産目録や役員等名簿と同じく毎会計年度作成する書類です4。
根拠:1私立学校法137条2同151条3同149条4同107条1項3号
閲覧の求めが来たときの段取り — 記録を残す
閲覧の請求を受けてから終えるまで
請求した人と立場を確かめる
債権者か、在学する者・保護者などの利害関係人か、評議員か。書類ごとに請求できる人が違う
見せる書類を特定する
計算書類等・監査報告・財産目録等のうち何か。年度も確かめる
業務時間内に事務所で閲覧してもらう
書面はその書面か写し、電磁的記録なら画面に表示したもの。持ち帰りは閲覧ではない
謄本の交付は費用を受け取る
債権者からの謄本の請求は、法人が定めた費用を受け取ってから交付する
記録に残す
日付・請求者・書類・対応した人を記録簿に書く
まとめ — 備え置く5つ、見せる相手、記録の3点
備え置く書類は、寄附行為、計算書類等と監査報告、財産目録等、理事会と評議員会の議事録の5種類で、会計帳簿は備置きではなく10年間の保存です。計算書類と附属明細書も、備置きの5年とは別に作成した時から10年間の保存が続きます。閲覧を請求できる人は書類ごとに違い、利害関係人からの請求は正当な理由がなければ断れません。園の法人が今日からできるのは、閲覧用の綴りを1冊作ること、役員等名簿の住所を伏せた写しを用意すること、対応の記録簿を置くことの3つです。
閲覧の請求は、園にとって年に何度もある話ではありません。だからこそ、来たときに慌てないよう、誰が何を見られるのかを一覧にして事務室に貼っておいてください。
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